前回までで、無限入口の飛び先がどうなるかについての解説が完了しました。
今回は打って変わって、箱に入った位置 が無限入口に与える影響について見ていきます。
無限入口への転移
このゲームでは、隣り合った部屋の間を「転移」するという仕様が存在します。 このシステムを使うと、部屋に入るとき、部屋の辺の中央ではない部分へと進入することができます。
こちらは、第 1 回で紹介した実験の図です。 今までの話をまとめると、この一番外側の緑の部屋に対しどの高さから入るかによって、次のように挙動が分岐することがわかります。 *1
- より高い位置に入ると、単に本体に 1 回入る。
- より低く より高い位置に入ると、本体に 1 回、クローンに 1 回入る。
- より低い位置に入ると、本体に 1 回、クローンに 2 回入り、無限入口が発動する。
ただし、本体の下端を高さ 、上端を高さ としています。
このようにして、転移を用いて無限入口を発動させることもできるわけですが、これに関してひとつ面白い性質があります。 実は、箱 X の無限入口が発動したとき、その行き先 X ε に入る位置は、箱 X に入った位置と同じ位置 になります。 以下の例で詳しく見ていきましょう。
ケース 1
まずは、上で紹介した実験と同様の構成で試してみます。
この通り、ε に対して辺の中央からズレた位置に飛ぶことができました。 この現象について、順を追って説明します。
まず、縦 7 マスの青い部屋の下から 2 マス目に位置するプレイヤーが右に移動します。 このマスは青い部屋の高さ から の範囲を占めていて、プレイヤーはそのマスのちょうど中間の高さである の位置から部屋を出ることになります。
すると、プレイヤーは緑の本体に同じく高さ の位置から入ります。 ここで は よりも小さいので、プレイヤーは緑の部屋に 3 回入ることになり、緑の無限入口が発動します。
それにより、プレイヤーは 同じく高さ の位置から 縦 5 マスの部屋である緑 ε に入ります。 *2 このとき、 は よりも大きく よりも小さいので、プレイヤーの行き先は下から 2 マス目になります。
数値に起こすとわかりにくいので、ビジュアル的に理解するのが一番ですね。 プレイヤーの重心(中央の位置)が部屋間を転移していって、もし無限入口に当たったらそのループの起点となる箱を ε に置き換えて考えればよいわけです。
ケース 2(Infinitesimal Shift 2)
もうひとつ、Infinitesimal から例をひっぱってきます。当然ながら Infinitesimal の具体的なステージに関するネタバレを含む ので、その点は注意してください。
まず、プレイヤーは青の高さ の位置から出て、同じ高さ の位置から緑クローンに入ります。ここで、縦 7 マスの部屋において高さ はどの位置にあたるかというと、
という変形を行うことで、この高さは「下から 5 と 5/6 マス目」、すなわち「下から 6 マス目の中で高さ の位置」であることがわかります。
そしてなんと、緑の部屋の対応するマスには、緑の本体が置いてあります。 よってプレイヤーは、その高さ の位置から緑の本体に入ります。これは最初に緑のクローンに入ったときと同じ高さであるため、以降こうして緑の本体への進入がループすることがわかります。 *3 まあ、こんな計算しなくても、プレイヤーの目の前が "無限に再帰している" ことは見て取れるので、無限入口が発動しそうだということは感覚的にわかるかと思います
ともかく、緑の無限入口が発動し、プレイヤーは高さ の位置に飛ばされます。 今回は緑 ε も縦 7 マスの部屋であり、高さ がその下から 6 マス目にあたることは先ほど確かめたので、プレイヤーは最終的に上の画像の通りの位置にたどり着くわけです。
無限入口と転移の組み合わせは、本当に色々なことができて楽しいです。 そもそも Infinitesimal というワールドを作った(ひいては Patrick's Parabox のカスタムステージを作り始めた)のは、この挙動を生かしたステージを作りたかったからだと記憶しています。
*1:ちょうど や の位置に入ったときの挙動は難しいので、ここでは触れません
*2:余談として、ステージにもともと置かれていない ε 部屋に無限入口で飛ぼうとすると、自動で 5 × 5 の部屋として ε 部屋が生成されるようになっています。
*3:無限入口を発動させるためには 3 回入ればよかったのですが、この例では理論上無限に入り続けることができるようになっています。Infinitesimal で転移を使って無限入口に入るステージは、すべてこのような理論的に美しい入り方が想定解になるように作問したので、3 回ルールを知らなくても解くことができます。
また、高校数学が分かる方向けに補足しておくと、緑の部屋に高さ の位置から無限回入れることは、
という無限等比級数を考えることでも理解できます。